制作風景 シンプル名刺入れ
見た目はシンプルな名刺入れですが、完成までには複数の工程があり、それぞれの工程ごとに、細部までこだわりを持って作っています。
そのこだわり部分を、制作過程に沿って紹介します。
1. 裁断
シンプル名刺入れの裁断した革のパーツです。構造がシンプルなので、パーツ点数は少なめです。
革は動物由来なので、背や腹など部分部分により状態が一様ではありません。用途に応じて、大きな革から型紙にそって切りだしていきます。
すべてのパーツを、型紙通りに正確に切り出すことに細心の注意を払います。
2. 床(とこ)磨き
革の裏面(床面)を磨きます。
見た目の美しさだけではなく、機能的にも名刺の出し入れをスムースにするために丁寧に行います。
床処理剤を全面に薄く塗布し、ウェス(綿布)か磨き具(スリッカー)で光沢が出るまで擦ります。これはすべてのパーツに同様に行います。処理剤が乾くまで少し乾燥させます。
写真左は処理前、右が処理後の革の床面。写真だと分かりづらいですが、処理後の方はざらざら感が抑えられて光沢が出ています。
3. 目打ち
ステッチをする箇所すべてに目打ちを行います。目打ちとは、革に小さな穴をあけておくことです。
手縫い特有の工程で、ミシン縫いには無い工程です。
まずガイド線を引き、ディバイダ(コンパス)を用いて革の切り口(コバ)から等間隔に線(ケガキ線)を引きます。
次に、ケガキ線にあわせて目打ちを行います。一般的には革手縫いの場合は、菱目打ちという櫛形の工具を使い、菱形の穴をあけます。
目打では、辺の長さにちょうど目数が収まるように、間隔を微妙に調整することができます。このミリ単位のほんの僅かなこだわりが、きれいな縫い目を作ります。
4. ポケット飾りの細工
名刺を入れる部分(ポケット)に、半円の窪みを付けます。この窪みがあると、名刺の出し入れが、よりスムースにできます。また、デザイン上のアクセントにもなっています。
まずポンチで半円を抜き、革包丁でとがった角を細かく落して丸く仕上げます。ヤスリで丸みをきれいに整えます。
5. ステッチ
目打ち穴に左右(表裏)から交互に糸を通していきます(クロスステッチ)。左右交互に縫って行きますので針は糸の両端に付けます。通常、麻製かナイロン製の丈夫な糸を使用します。洋裁用(布用)の糸よりも太い番手のものを使用するのが一般的です。糸にはワックス(蜜蝋)をあらかじめ塗ってから使用します。
写真はポケットの上辺、つまりポケットの開口部です。この部分は革を貼りあわせてないので、ステッチは不要と思われがちですが、実は必要です。ここでのステッチの目的は、革の伸び防止・補強です。
ステッチの際、レーシングポニーという道具を使用することが多いです。レーシングポニーが革をしっかり挟みこむので、両手で針を操作することができるようになります。
ステッチが終わったら、へらで上から軽くしごいてステッチの凸凹を抑えておきます。縫い終わった後の、このひと手間で、糸がほつれにくくなり、丈夫さが増します。見た目もスッキリします。
6. コバ処理
ステッチが終わった箇所の革の切り口(コバ)を処理します。
左2枚がコバ処理済みです。右2枚はまだ切りっぱなしのままです。コバの処理がきちんとしてあると、見た目がグッとよくなり高級感が増します。
手縫いで用いる革の多くはタンニンなめしの革です。タンニンなめし革には、圧を加えると形状をそのまま記憶して元に戻りにくいという性質があります。そのため、コバを整え磨くことできれいな光沢が生まれます。
コバ処理の手順
1. 耐水ペーパーなどで切り口を整える
2. (必要な場合)革用染料で着色
3. コバ磨き剤を切り口に塗布
4. ウェス(綿布)や磨き具(スリッカー)で磨く
5. 熱したコテでコバふちを焼きしめる(ふち捻、化粧捻などともいいます)
7. コバ漉き
名刺が入るポケットが二つ重なる部分は、革が重なり分厚くなります。そのままでも機能的には問題はありませんが、見た目がスマートではないので、コバを薄くして厚みを軽減します。
ガラス板の上で、コバの内から外に向かって床面を刃物で薄くそぐようにして漉きます。コバ漉きにはよく研がれた革包丁を使用するのが一般的です。
8. 貼り合わせ
名刺入れの本体とポケットを張り合わせます。革の貼り合わせには革専用のノリ(ボンド)を使用します。名刺入れの場合はポケットですので全面をベタで張り合わせるのではなく、コの字になるようにコバから数ミリ内側だけを張り合わせます。
ポケットの左右と下にはみ出た部分を丁寧に切り落とします。
9. 仕上げ
ポケットを貼り、周囲すべてのステッチが終わったら、名刺入れ本体の外周のコバを磨きます。革を貼り合わせた後にコバを磨くことで、全体にきれいな光沢がでて、革2枚を貼り合わせてあることが見ただけではわからなくなります。
また、コバを磨く前に、角の部分をわずかにカットしてヤスリなどで丸く仕上げておきます。これにより、角が当たらないため、手に持った時の感触がよくなり、使いやすくなります。
最後に、中心から折りたたんで革に折り癖を付けます。弱い力でゆっくりと圧迫をしながら、時間をかけて癖をつけます。
名刺入れの完成です。
各所に細かいこだわりを積み重ねることで、見た目がスッキリとしたシンプルな名刺入れが出来上がりました。
本商品は、ナチュラルズBASEショップにて販売しています。