制作風景 ムジークシリーズのパスケース
楽器モチーフで遊び心のあるデザインのパスケース ~ ムジーク(音楽)シリーズ。
ギター、バイオリン、ピアノの“トリオ”のラインナップです。音楽好きの方、それぞれの楽器を演奏する方に人気のある作品です。
今回は、「ギター」と「バイオリン」の制作過程を説明します。
このパスケースは、単に楽器の形と色を模したデザインというだけではなく、アコースティック楽器の木の質感を感じとってもらうために、仕上げのクオリティにもこだわった本格仕様のパスケースです。そのための様々な工夫を紹介します。
1. 裁断
このパスケースはカードポケットが表と裏からセンターの革を挟み込むシンプルな構造です。カードは横入れ式です。
主なパーツは「表ポケット」、「センター」、「裏ポケット」です。
表ポケットが楽器モチーフの飾りポケット(上記写真左)、裏ポケットは飾りのないプレーンなポケットです(写真右)。ポケットは表裏ともキャメルカラーです。センターは仕切りの役割をする黒のレザーです(写真中)。
材料となる革は、表裏ポケット、センターとも1mmという薄手の牛のタンニン鞣(なめ)しレザーです。センターの裏面には光沢のある豚革(焦げ茶)を貼ります。1mm厚の革を使うことで、3つのパーツを重ねても、スリムなパスケースに仕上がります。
これ以外に、楽器モチーフを表現するための飾りパーツがあります。飾りパーツは本体と同素材の革で切り出します(後述)。
2. ポケットの床処理
革の裏面(内側)のことを床面(とこめん)といいます。ポケットの床面は滑りをよくするために、磨いて毛羽立ちを抑え光沢を出す処理をします。
ガラス板に革の床面を上にしてのせ、糊の役目をする床処理剤をヘラで薄く均一に塗ったら、ウェス(白綿布の端切れ)を使って根気よく磨きあげます。タンニン鞣しレザーには圧を加えると形を維持する性質がありますので、次第に表面に光沢が出てきます。
革の裏面はそのままでは結構毛羽立っています。この処理をしっかり行うことで使い勝手がよくなります。
3. センターの裏貼り
センターになるレザーは、パスケースの型崩れを防ぐためにしっかりと固めに仕立てる必要があります。芯材を兼ねて豚革を貼ります。豚革には様々な種類がありますが、ここでは滑りをよくするために光沢仕上げのスムースレザーを使用します(アメ豚とも言います)。0.5mmの薄さで、この革もタンニン鞣しです。
豚革はセンターより一回り小さくカットしてあり、さらに裏側の縁をさらに薄く漉くことで、完成時にパスケース周囲が厚ぼったくならないようにします。
センターに豚革を貼りました。
センターのポケット開口部分のコバ(革の切り口)を磨きました。センターの牛革と豚革とは色が異なるため、レザー用の黒色染料で染色してから磨いています。
ムラなく輝くような黒色に仕上がりました。
4. 飾りパーツの制作
飾りパーツは、「ギター」のネックとブリッジ、「バイオリン」の指板とテールピースを模したデザインで、ポケットと同素材の革から切り出します。
小さく薄い(1mm厚)パーツですが、パスケースを持った時に、手への当たりをやさしく、滑らかにするため、細かい飾りパーツもコバを少し薄く漉き、コバ磨きもきちんとしておきます。
小さなパーツなので根気と集中力のいる作業です。
5. 表ポケットの作成
楽器モチーフの表ポケットを型紙に沿って加工します。
「ギター」、「バイオリン」どちらにも特徴的な“くびれ”の部分を切り取りました。そして所定の位置に飾りパーツを貼ります。
次いで、「ギター」の“サウンドホール”をポンチを用いて丸く抜きます。「バイオリン」の“f字孔”も丸ポンチ抜きとフリーハンドでカットします。
この時点で、もうだいぶ楽器らしく見えますね。
続けて、ポケットの開口部と、もう一か所の“くびれ”の個所にステッチをかけ、コバを磨いて整えます。また、飾りパーツも周囲をステッチして固定します。
6. 表ポケットのセンターへの取り付け
表ポケットとセンターを貼り合わせます。ポケットとセンターそれぞれの開口部同士をきちんと揃えて位置合わせをします。
7. 開口部以外の目打ち
ポケット開口部以外の残りの3辺に目打ちをします。この時点ではまだ裏ポケットは貼り付けていません。
飾りパーツとの重なり部分や、“くびれ”で切り抜いた箇所があるため、等間隔に均一に目打ちをするのが難しい作業です。ここは最終的な作品の仕上がりを左右するポイントなので慎重に作業を進めます。
8. 裏ポケットの準備
裏ポケットも、まずポケット開口部にステッチを施し、コバを磨いて整えます。
(名入れをする場合は、このポケットの上部中央に刻印をします。)
そして、裏ポケットの残りの3辺にも目打ちをします。センターと貼り重ねた時に、同じ位置に目打ち穴が来るように、仮止めをして現物合わせをしながら目打ち間隔を調整します。
9. 全体のステッチと仕上げ
表ポケットと同様に、裏ポケットをセンターに貼り合わせたら周囲のステッチをします。
そして、最後に本体のコバ仕上げです。
コバを耐水ペーパー(紙やすり)を使用して滑らかにして行きます。角がつぶれるのを防ぐため、全てのコーナーはわずかに切り落として、耐水ペーパーで丸く成型します。
ヤスリがけと磨きを数回繰り返して仕上げてゆきます。ここは3枚の革が重なった部分ですが、磨きを繰り返すことで、元々1枚の革だったかのようになります。
この作品では、アコースティック楽器を連想させる質感を革で表現したいので、この周囲のコバはあえて染色していません。キャメル+黒+キャメルの重なりが縞模様になり、それがちょうど木目のように美しく見えるからです。
ムジークパスケースの完成です。
各パーツの処理をきちんと施し、各パーツを一つにまとめた後に、全体を一つにするための処理を施して、ようやく一つの作品が出来上がります。根気の要る作業の繰り返しですが、完成した時の達成感がたまりません。
以上、「ムジークシリーズ パスケース」に施した様々な工夫やこだわりを紹介しました。
本商品は、ナチュラルズBASEショップなどにて販売しています。